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あ / か / さ / た / な / は / ま / や / ら / わ 英字 / 数字 / ラウンジ別 / メーカー別 / 一覧 ドリーム・ヨット 種別 体験型ラウンジ(このゲームの起動用オブジェクトはない) 順番待ち ×非対応 同時起動 - プレイ人数 - 概要 設置場所 リワードアイテム よくある質問 攻略操作 ルール 攻略法【フレンドが持ち帰れるリワード】 注意事項 関連項目 概要 光る球体に触れることでリワードを取得していく。(09時更新) 設置場所 ドリーム・ヨット リワードアイテム 名称 入手のヒント モダンスツール 初日 モダンサイドテーブル アンブレラプラント 観葉植物ディスプレー 大理石ペガサス デカンターとコップ ハイクラススピーカー モダン・ファウンテン モダン2シーターソファ モダンダブルベッド ミニカウンター 日曜日 観葉植物 ハイパフォーマンスマイク モダン・ダイニングチェア 月曜日 モダン・ダイニングテーブル オーブライト カウンターユニット 火曜日 アンブレラプラントディスプレー モダン・テーブルランプ モクテル 水曜日 サンラウンジャー モダン・コーヒーテーブル 木曜日 モダン・ランプ アイスバケットとドリンク 金曜日 本コレクション モダン2シーター・ラウンジソファ モダン・本棚 土曜日(1週目) ボトルとグラス モダン・コーナーソファ トロピカル水槽 土曜日(2週目) よくある質問 攻略 操作 ルール 攻略法 初日には初日のリワードが貰える。その曜日のリワードは翌週に貰える。 対象日であってもまれに出現しないことがあり、その場合はラウンジを移動しなおすことで出現する。 一部のリワードはフレンドも持ち帰れる。 【フレンドが持ち帰れるリワード】 名称 入手のヒント モダンサイドテーブル 初日 アンブレラプラント モダン2シーターソファ モダン・ダイニングチェア 月曜日 モダン・テーブルランプ 火曜日 本コレクション 金曜日 モダン・本棚 土曜日 注意事項 関連項目 コメント欄 ※掲載情報に関するコメントはこちらへどうぞ(スパム防止のため、URLの投稿は禁止しています)。 ※Wiki編集方法が分からない方は、こちらか情報提供板へ情報をお寄せください。文章体で書き込んで頂けると、Wikiへの反映もはやくなるかと思います。 ※攻略等の質問は質問掲示板へどうぞ。 名前 コメント すべてのコメントを見る リワード漁りにすかいくりーなーやってたらコツはわかった 中央から消していけばあとはなんとかなるね あと下手に動くと予測弾道に入るから所々止まるなりして弾道を変えさせるしかない 一応それでレベル2は通った 3はわからん -- (名無しさん) 2014-10-18 17 58 32 □ボタンでアクセル加速出来ませんR2ボタンだけ対応してます -- (名無しさん) 2014-07-14 12 25 18 クエストが「悪魔降臨」から進みません。 -- (匿名希望) 2014-07-02 19 01 58 少し訂正します。前日のボーナス、土日0の付く日が貰える条件20から25秒以内は確定ですが、当日のボーナスがもう一度貰える事に何か条件が有るようです。 -- (MLG42822) 2014-06-16 00 06 20 0時過ぎてまだ「0の付く日のキャンペーン」のテロップの流れている内にボーナスを貰うとすこやかアンプル小が貰える。テロップ更新時間は、0時から20~25秒後の間。11日に確認しました。すぐにはその日のボーナスは支給済みになり貰えませんが、後で行くともう一度その日のボーナスを貰えます。これは余談。 -- (MLG42822) 2014-06-11 00 09 54
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アンソニーの部屋データ みんなのお部屋はこちら 初期部屋 初期家具(赤字は固定家具、青字は入れ替えのみ可能、緑字は撤去可能) カラジューム しかくいちくおんき ビオラ? メトロノーム(机上) ロイヤルなソファ ロイヤルなタンス ロイヤルなテーブル ロイヤルなとけい ロイヤルなベッド ロイヤルなランプ 壁紙 ロココなかべがみ 絨毯 ロイヤルなゆか ♫初期BGM オンリーミー 固定家具等の情報提供をお願いします! 名前 コメント
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このページは2chのビクトリー関連スレの書き込みを コピペして張り付けるページです。 そのうち誰かが編集する…かもしれません 1レスごとに↑ 上にある「横線」でくぎってくれるとありがたいかも 000 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ 代表決定戦とか全部の大会優勝したら モンスターと武器カードは全部並ぶから、さっさとクリアする方がいい 全大会クリア→武器・モンスターカード全部販売 港と空地のピサロとレディピサロ討伐→レジェンド魔王・大魔王入手 ACで大魔王討伐→各大魔王で手に入るSPカードとコスチューム解放 この辺をテンプレに入れて欲しいわ この手のカードが欲しい~系の質問大杉
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夜雨戦線 -Cross Battle- ◆6XQgLQ9rNg 雨は降り止まない。 更けていく夜を濡らす大粒の雫は、ひたすらに世界を冷やしていく。 ざあざあと、ざあざあと。 大声を上げて雨が降る。 天が流す涙のような大雨に打たれ、人ならざる容貌をした騎士が飛び跳ねる。 異形の騎士――カエルにとって、大雨は悪天候などではない。 それを証明するように、カエルは人の身では容易に到達できない高さまで跳躍する。 立ちはだかるブラッドとジョウイを飛び越えて上昇を終え、刹那の停止時間で虹色の刀を振りかぶった。 降りそぼる雨と共に、降下する。 虹の軌道の先、顔を顰めたのは夜の支配者マリアベル・アーミティッジだった。 緑の斬撃を見切り後ろに跳ぶ。 直後、目の前に落ちてきた七色の刀は、マリアベルに傷一つ与えなかった。 既に夜が訪れているのだ。ノーブルレッドを簡単に仕留められるはずがない。 「ロックゲイザーッ!」 マリアベルが手を翳すと同時、地面が隆起を始める。ぬかるんだ土は硬質の牙となり、着地するカエルを貫くべく伸長する。 雨音を押しのけて衝撃音が響く。 着地の衝撃を足腰で吸収していたカエルが、刀を土の牙に叩きつけた音だった。 牙は砕けない。 されど、陽光を浴び続けた鉱石より生み出された業物もまた、折れはしない。 土の牙とせめぎ合うカエルへと、長髪の巨体が詰め寄り拳を握り込む。 スレイハイムの英雄ブラッド・エヴァンス。 隆々とした体躯から繰り出される拳打は重く、直撃すれば馬鹿にできないダメージを受ける。 直撃すれば、だ。 ブラッドは、構えた拳を下げざるを得なくなる。 尖った耳をした細身の男――魔王が、巨大な鍵をブラッドの側面へと突き込んできたからだ。 攻撃のために握った腕を引き戻し、左右の腕を交差させる。 ランドルフを受け止めたブラッドの脇を抜けるのは、回転する鎖が上げる暴虐的な鳴き声だ。 鎖上に並ぶ細かい無数の刃が、雨粒を散らして斬り上げられる。 別たれた始まりの紋章を両の手に宿す少年――ジョウイ・アトレイドの攻撃は、突如生じた激流によって阻まれる。 激流を生んだのは、雨を全身に浴びたカエルだ。 大雨の勢いを得て、激流がジョウイへと迫りくる。 地面を削り土砂を飲み込み雨水を吸った水は津波に酷似していて、避け切れるような遅さではなくやり過ごせるような矮小さではない。 このままでは押し流される。 訪れる危機を直感し顔を顰め、左手を掲げようとしたジョウイの前で。 雨粒が、凍りついた。 中空に顕現した氷の粒は急激に気温を下げ、降り注ぐ雨を次々と凍らせていく。 「シルバー、フリーズ」 魔法使いの囁きが、雨音を縫うように響いた。 直後、激流の前に巨大な氷の結晶が形作られる。 結晶はジョウイを守るように、水を押し留める。 雨粒を用いて作られた間に合わせの氷壁が、津波に等しい水量に勝る道理はない。 故に結晶はすぐに皹割れ押し負け砕け散り、水は流れを取り戻す。 しかし、激流の先にジョウイの姿はない。 脆い結晶が作り出した僅かな時間は、ジョウイにとって充分な時間だった。 「助かったよ、ありがとう」 水から逃れたジョウイが告げると、魔法使い――ストレイボウは首を横に振る。 「礼を言うのは、俺の方だ」 ストレイボウは横目でジョウイを伺うと、照れくさそうに笑んで告げる。 「俺を――俺なんかを、仲間だと言ってくれて、本当に嬉しかった。ありがとう」 「ジョウイだけではないぞ」 ブラッドがストレイボウの側に立っていた。 「こうして肩を並べ戦ってくれるのなら、わらわたちもお主の仲間じゃ」 マリアベルがストレイボウの隣で微笑んでいた。 その事実が、言葉が、ストレイボウの胸に沁み込んでいく。 まるで、よく冷えた身を心地よい湯に浸らせた瞬間のように、じんわりと沁みわたっていく。 ゆっくりと話をしている場合ではないと分かっている。こんなときに言うべきことではないのかもしれない。 そう思いながらも。 言わずにはいられなかった。 「ありがとう……」 体は雨に打たれてびしょ濡れでも、心は毛布に包まれたように温かかったから。 「ありがとう……!」 三人が、深く頷いてくれた。 雨脚は衰える様子を見せず夜を湿らせていく。広がっているのは、暗く冷たい現実だ。 だとしても、だからこそ。 なんとかカエルと向き合わなければならないと、ストレイボウは震えながらも思い直す。 そんな彼の意識を汲み取ったように、ブラッドが、魔王とカエルを見据えたまま口を開いた。 「ジョウイ、ストレイボウ。尋ねたいことがある」 その声を聞き逃さないよう、ストレイボウは耳をそばだてる。 手短に告げられたのは、紅の暴君と呼ばれる魔剣を所持しているか否か。 ストレイボウが首を振る隣で、ジョウイが呟く。 「今は持っていませんが、心当たりなら――」 だが彼の声は、 「――作戦会議はそこまでにして貰おうかッ!」 雨の加護を受けた騎士の突貫によって、遮られた。 密集していた四人が、散開する。 ジョウイが右へ。 マリアベルが左へ。 ストレイボウが後ろへ。 そしてブラッドが、前へ。 「持っていないのならば今は構わない! ジョウイ、ストレイボウ! お前たちは、向こうで戦っている俺たちの仲間の手助けに行ってくれッ!」 カエルの剣を潜り抜け、迎撃するブラッド。その巨体を狙い、魔王が闇を炸裂させる。 その炸裂を阻むのは、別の闇だった。 レッドパワー、シャドウボルト。 生じた闇は、炸裂する闇と食い合い侵食し合い飲み込み合い、相殺する。 闇が消えた後に、カエルの姿はない。深追いせず、一度距離を置いていた。 「カエルたちの相手はブラッドとわらわが引き受ける、だから――」 「――止めさせてくれ」 マリアベルの言に割り込んだのは、ストレイボウの一言だった。 顔を上げ、マリアベルとブラッドに視線を向けた後、敵である騎士を真正面から見据え、魔法使いは続ける。 「カエルを、止めさせてくれ」 濡れそぼった姿から、確固たる強さを持って放たれた声は、雨音にもかき消されることなく夜闇に伝播する。 「ぼくからも、お願いします」 続けたのは、ジョウイだ。 「道を違えてしまっても目指すものが同じなら、確かな目的を抱いていられるなら、歩いて行ける。でも」 ジョウイは目を細め、何かを確かめるように、左手を強く強く握りしめる。 「でも、目的地まで違えてしまったら、それはきっと、哀しいことだと思うから」 「……分かった。ならばジョウイ、お前だけでも頼めるか? 魔王とは因縁があるようだが……」 気遣うようなブラッドに、ジョウイは首を縦に振る。 「構いません。あなた方にも、魔王を討つ理由がある。 奴はルッカと――リルカの仇ですから」 「心得た、確かに心得たぞ。ジョウイよ、お主の無念、わらわたちが晴らそう。 代わりと言っては何じゃが――」 マリアベルが、肩越しに後方を見る。 そこはもう一つの戦場であり、ジョウイが向かうべき場所だ。 「わらわの友を――アナスタシアを、守ってやってくれ」 憂いと心配を帯びた眼差しの向こうでは、轟音と絶叫が響いている。 覚悟を決めるように、ジョウイは湿った空気を深く吸い込んで、頷いた。 「……分かりました。皆さん、どうか、無事で」 「ジョウイ、死ぬなよ!」 ストレイボウの激励に片手を上げて応え、ジョウイ・アトレイドは駆け出した。 ◆◆ 幾度目かの剣戟の音が、響く。 振り下ろされた天空の剣を受け止めたのは、魔界の剣。 かつては世界を救った者――ユーリルと、世界に呪詛を吐き続けてきた者――イスラがせめぎ合う。 「邪魔を、邪魔をするな――ッ!」 絶叫するユーリルを前に、イスラは歯噛みする。 馬鹿げた膂力から繰り出される攻撃は、まともに受けるには重すぎた。 だからイスラは刃の角度を変え、一歩引く。 天空の剣に乗せられた力が持て余され、ユーリルがバランスを崩した。 そこに、魔界の剣を突き込む。 貫きの一撃はしかし、ユーリルを捉えない。 ふわりと浮かびあがるようにして避けたユーリルは、着地と同時に再び疾走する。 ユーリルの目が見ているのも行く先も、イスラではない。 「アナスタシア、アナスタシア、アナスタシアぁ――ッ!!」 ゾッとするような咆哮を上げ、一途なまでにアナスタシアへと向かう。 イスラは舌打ちをし、ぬかるんだ土を蹴りつけてその進路を阻む。 立ちはだかると、ユーリルの顔にあからさまな嫌気が浮かぶ。 「なんでだよッ! なんで、なんで邪魔をするッ!?」 「色々あるんだよ。説明するのが億劫なくらいにね。個人的には、アナスタシアを守りたいわけじゃあないさ」 「だったらどけよッ! 殺させろよ――ッ!」 泣きじゃくり駄々をこねる子供のように喚き散らし、剣が振るわれる。 威力は高いが、感情の濁流に突き動かされた行動と攻撃パターンは単調で分かりやすい。 故に、見切るのも阻むのも容易い。 問題は。 相手に退くつもりがなく、体力の限界を完全に突破し振り切っていることだった。 このまま戦い続ければ、強引に押し切られる可能性が高い。 アキラはピサロの足留めで手一杯になっているし、ブラッドたちがいつ戻ってくるかも分からない。 更に加えるならば、守るべき対象のうちの一人――アナスタシア・ルン・ヴァレリアは、信用できない。 そう、アナスタシアよりもむしろ。 分かりやすいだけ、共感できる点があるだけ、ユーリルの方が信用できる。 「キミの気持ちは分からなくはないよ。僕だって、アナスタシアは大嫌いだ。 教えてはくれないか? アイツがキミに、どんな酷いことを言ったのか」 「うるさいッ! そんなことを言いながらアナスタシアの味方をするんだろ! 僕の邪魔をするんだろッ!!」 ユーリルが、手を掲げた。 応じるように、応えるように、雨雲の中で稲妻が猛る。 「シンシアだって僕のことを分かってくれてなかった。ずっと一緒にいたのに。小さな頃から、ずっとずっと一緒にいたのにッ! 必死になって救った世界だって、今は、僕に優しくしてはくれないッ!!」 細長い稲光が、夜空を食い荒らして這いまわる。 「それなのに、お前が。アナスタシアを守ろうとしているお前なんかが」 ユーリルの声が熱を増す。 その無尽蔵な感情を原動力にしているかのように、雷光が夜を照らす。 「お前なんかがッ! 僕のことを分かってたまるか――ッ!!」 青白い光に照らされたユーリルの顔は、びしょ濡れでぐしゃぐしゃで震えていた。 真っ黒な感情をこね回して作った土台の上で、真っ黒な感情を削り取った杖を握っていないと立てないほどに、ボロボロだった。 そんな、憐れみを感じることすらできないほどに崩れ果てた少年を前にして、イスラは、得心する。 ――はは、何言ってるんだ。分かるさ。だって、瓜二つじゃないか。 ユーリルの手が、勢いよく振り下ろされる。 その挙動を黙ってみていることしかできなかったのは、きっと。 ――こいつは、この汚くて無様で醜い顔は。 かつて呪いを怨み自分を恨み世界を憎んでいたイスラ・レヴィノスは、この場にいる誰よりも深く強く、ユーリルに共感してしまったから。 ――他の誰でもない、この僕に、そっくりなんだよ。 手に取るように、分かる。 こうなってしまった人間には、小手先の戯言も表面的な慰めも綺麗事の説得も届かない。 深く暗くどす黒い感情の沼の奥底に届くのは。 全てを知り、理解し、受け入れ、その上で道を正してくれる、痛みすら感じるほどに強く、優しい想いだ。 それでも、分かったとしても。 与える術を、イスラは持ち合わせていなかった。 そんなイスラを、罰するかのように。 雷撃が、天から降り注いだ。 ◆◆ 頭が痛く息苦しく体が気だるい。 雨に濡れた服は重みを増し、全身に纏わりついて体温を奪っていく。 まるで、寝不足時に風邪を引いたかのような不快さに耐えながら、アキラは雨の向こうに意識を傾けていた。 美しい容貌に憤怒を刻む魔王――ピサロが、濡れそぼった銀髪を振り乱し突っ込んでくる。 雨粒が地面を叩く音と皮膚を伝い落ちていく水の感触と鼻孔をくすぐる湿っぽい香りを無視し、集中力を高めていく。 疲労を訴える脳に鞭打ち、鮮明なイメージを描画する。 ピサロが、速度を殺さず踏み込み斬撃のモーションに入った。 刀が雨を切り裂いて迫るよりも、少しだけ早く。 練り上げていたイメージを、アキラが解放する。 アキラを中心として具現化したのは、四つの黒の球体だ。 鎖のように連なった球体は低く唸り、ピサロの身を薙ぎ払う。 シャドウイメージ。 生み出された負の思念は、憎悪に突き動かされた魔を統べる者の命を縮めるには温すぎて、ピサロに大きなダメージは与えられない。 それでも。 「く……ぅッ!」 アキラから飛び退るように距離を取ると、ピサロは呻きたたらを踏んだ。 相手は魔王なのだ。 シャドウイメージで恐怖を見せつけ自、分を見失わせるほどの効果は望めない。 だが、悲痛なまでの感情をむき出しにしたピサロの精神を揺さぶる程度の効果はあったようだった。 「鬱陶しい……真似を……ッ!」 呟くピサロを前に、アキラは再度集中しイメージを作り上げた。 出鼻を挫くべく放ったスリートイメージが、ピサロの進行を妨害する。 冷静さを失している故に、アキラの精神攻撃がピサロの行動を確実に阻害する。 だが、それは決定打には程遠い。 アキラは水際でかく乱し続けているだけに過ぎず、敵を打破するだけの一撃を持ってはいなかった。 じりじりと、相手の精神力を削っている手ごたえはある。 同様に、アキラ自身の精神と肉体が疲労している実感も強かった。 息が荒い。目も霞みそうになる。膝は今にも笑いそうだし、気を抜いたらすぐに意識が飛んでいきそうだ。 油断すればあっという間に首を取られてしまうような強敵を前にした緊張感が。 超能力を行使するために必要な、絶え間なく休みない集中が。 アキラの精神を、確実に蝕みすり減らしていた。 どれだけ阻み何度惑わしても、ピサロは倒れない。 剣を握る手からも地を蹴る足からも憎しみに満ちた瞳からも、崩れる気配は微塵もない。 安易に切り崩すことのできない鉄壁の砦を連想させるその姿と対峙して、アキラは奥歯を食い縛る。 ピサロは強かった。 彼が激昂せず冷静ならば、アキラの首はとうに手折られているだろう。 絶望的なまでの力量の差を、実感せずにはいられない。 だとしても。 負けるつもりも挫けるつもりも諦めるつもりも、ない。 アキラの胸には、刻まれている。 刹那の時間共に戦った『英雄』の姿が、だ。 彼女はボロボロになっても立ち上がった。 彼女はその身が砕けても退かなかった。 そんな彼女が――アイシャ・ベルナデットが眠るこの場所で、弱音を見せるわけにはいかないのだ。 簡単に膝を付くようでは、アイシャと共に戦ったと誇ることができなくなる。 ひいては。 アイシャの仲間として、相応しくないということになってしまうのだ。 だから。 だからこそ。 アキラは、倒れない。 どれだけ心をすり減らし精神を酷使し意識に鞭打っても。 アキラは決して、倒れはしない。 「来いよ……!」 意識を、研ぎ澄ます。 あらゆる雑念を追い出し、抗う意志だけを練成しイメージを作り出す。 「俺がここにいる限り、アンタの好きにはさせねェッ!」 咆えるアキラを、一瞥して。 ピサロは、何度目かになる突撃を敢行する。 迎撃のため具現化させたのは、ヘルイメージ。 亡霊のような思念は闇の中飛び回り、ピサロを吹き飛ばすべく不規則な軌道を描く。 ――その亡霊が、ことごとく打ち落とされた。 中空に生じた破壊的な花火を思わせる広範囲の炸裂が、ヘルイメージを片っ端からぶち壊していく。 「喚くな、人間……」 炸裂の下、距離を詰めたピサロが冷たい声で告げる。 胸中に狂おしい憎悪を宿し冷静さを失っていても、ピサロという男は愚かではない。 突撃しか能がない相手ではないと、理解はしていた。 先ほど、暴虐の限りを尽くす漆黒の雷を見せつけられたのだから。 分かっていたからこそ、アキラは、やるべきことと出来ることをやってきた。 超能力をフルに行使し精神を追い詰め削り続け、魔法を使わせないよう集中力を乱させ続けた。 それでも、やはり。 魔王の称号は、伊達ではなかった。 隙も素振りも見せず、走りながら炸裂の呪文を唱えたピサロは、ヘルイメージを完璧に迎撃しきって見せた。 「五月蠅い屑が。ここで、殺す」 薄く反り返った刀身が、雨と夜気を切り裂いて来る。 すぐ近くでけたたましい雷鳴が鳴り響き、鼓膜をびりびりと振るわせた。 その音は、まるで。 死の呼び声のようだった。 ◆◆ 勇者と呼ばれた少年が呼び寄せた、天から堕ちる雷が。 魔王と呼ばれた青年が振り上げた、首を狩るべく刃が。 憎しみのままに、イスラとアキラの命を奪い取る、その直前に。 二色の輝きが爆発的な勢いで広がり、大雨が降りそぼる夜を照らし上げた。 浴びただけで全身を切り刻まれそうな鋭さを感じさせる、破壊力に満ちた赤黒い輝きと。 浴びただけで体力が湧きあがりそうな温かさを感じさせる、活力に溢れた碧緑の輝きだった。 赤黒い輝きは刃のようにピサロへと迫り、彼の攻撃を阻害する。 碧緑の輝きは盾のように雷の前に立ちはだかり、イスラを守り抜く。 対称的な二色の中心に、一人の少年が佇んでいた。 彼の頭上に光を放つ二つの紋章が、神々しく浮かび上がっている。 「援軍か……ッ!」 「邪魔者が……ッ!」 二種類の呟きが、零れ落ちる。 どちらかと言えば、ジョウイは邪魔者だ。 それも、あらゆる者にとっての、だ。 だが今は、援軍の真似事をする必要があった。 この島には、単身で圧倒的な力を有する者が多すぎるのだ。 黒き刃だけではなく、輝く盾の紋章をも宿したジョウイもまた、かなりの強者であるとは言える。 しかし、一人で全員を殺し生き残れると信じられるほど、ジョウイは楽観的ではなかった。 利用できる者は利用する。 殺し合いに乗った者であっても、そうでなくても、だ。 その見極めと選定をするために。 ジョウイは、親友の力が宿る左手を強く握りしめて、戦場へと身を躍らせた。 ◆◆ 虹色の刀と竜の爪が交差する。 火花が散りそうなほどの激しさでぶつかり合った武器は、一瞬の均衡を経て距離を置く。 後ろへ跳んだのは、カエルだ。 持ち前の跳躍力を活かし一足で離れていくカエルを、ブラッドは迷わず追走する。 ブラッドが努めるのはショートレンジの維持だ。 距離を取られては不利になる。 ブラッドが保有する遠距離攻撃手段は、昭和ヒヨコッコ砲のみ。 その武器は、普段ブラッドが運用するヘヴィアームに比すれば心もとなく、カエルが使用する水の魔法に抗うには少々力不足だった。 そして、ストレイボウ、マリアベルと比して、ブラッドが最も近接戦闘に長けている。 故にブラッドは、カエルを抑える。 リルカの仇である魔王には、彼女のこと以外にも借りがある。 だがブラッドは、かつて自身を破った相手のことは思考しない。 そちらは、共に戦う仲間に任せればよいのだ。 何せその仲間は、夜の支配者なのだから。 そして自分は、あくまでカエルを抑えるだけ。 カエルに剣を収めさせるのは、新たな仲間の役目だ。 「カエルッ! 話を、話をさせてくれッ!」 叫び声が雨音をかき分けても、応じる声はない。 だから、声の後押しをするように、ブラッドは駆ける。 ダッシュの勢いを殺さず、体当たりじみた蹴りをぶち込んだ。 入る。 確信の直後、思いの外硬い感触が靴裏に食い込んだ。 たたらを踏むカエルの右手へ、ブラッドは手を伸ばす。 刀を握る腕を捩じり上げようとするが、届くよりも早く緑の腕が翻る。 ブラッドを刻むように動いた刀身に舌打ちを漏らし、伸ばした腕を引き戻す。 虹が雨粒を薙ぎ払った。 もう一度、突撃する。 そのブラッドと並走するように駆け寄る、一つの影があった。 ストレイボウだった。 地を蹴る彼の眼はブラッドを顧みず、ただカエルだけを見つめている。 「ストレイボウ!? 下がっていてくれッ!!」 ストレイボウは、ただ首を横に振る。 「……後ろから喚いているのは、嫌なんだ」 カエルを見つめながら届けられる呟きを、ブラッドはなんとか拾う。 「近寄りたい。そうしなきゃ俺の声は届かないし、それに――」 ストレイボウは雨の中、確かに言う。 激しい雨音に掻き消されないように、言葉を打ち立てる。 「――あいつの声が、聞こえない」 そこで、ストレイボウはブラッドを見る。 決意じみた色に染まった黒の瞳の奥に、震え揺らぐものがあった。 よく見れば、彼の手先が小刻みに揺れていた。 さしものブラッドも、ストレイボウの心底を推し量ることはできない。 それでも、分かる。 ストレイボウが何かに怯えと恐れを抱えながら、立ち上がり声を張り上げていることが分かるのだ。 無理をしているのかもしれない。今にも折れそうな心を必死で鼓舞しているのかもしれない。 だからこそ、無謀だと分かっていても。 ストレイボウの行動を諌めることは、できなかった。 「俺が抑え切ってやる。だから――届けて見せてくれ」 「……ありがとう」 それだけ告げると、ストレイボウはカエルを見つめなおす。 その歯を食い縛った横顔は、必死さと危うさを感じさせた。 「カエル、少しでいい! 俺と、話をしてくれッ!」 声を聞きながら油断なくカエルを窺う。 異形の騎士は武器を構えていたが、今のところ攻撃の兆しは見られなかった。 「言っただろうストレイボウ。俺はもう、戻れないと」 戻れない。 告げるカエルの声に悲哀も後悔も絶望もなく、あるのは強靭さと頑健さと一途さだった。 それを裏付けるように、続ける。 「仮にまだ後戻りが出来るとしても、俺はその選択肢を選ばない。決して、だ」 「お前ほどの男なら、分かっているだろう……? お前の選択が、行動が、誤っているとッ!」 「俺は自分の意志に忠実に行動している。誰に糾弾されようと、曲げるつもりなどない」 薄く湾曲した七色の刀が、ゆっくりと持ち上がる。 「俺は俺のためにこの手で仲間を斬った。お前を斬ることにも躊躇いはない」 差し向けられた切っ先は、ストレイボウへと向いていた。 冷酷な拒絶にストレイボウは唇を噛み、目を伏せ、それでも言葉を紡ぐ。 「……罪滅ぼしのためでは無く、お前の意思で友を救えよ」 拳を握りしめて、顔を上げる。 「俺はまだ罪悪感を捨てられない。救いたいと思うのも、罪から逃れたいからかもしれない」 その口端には、嬉しそうな微笑が確かに浮かんでいた。 「けれど、カエル。お前がくれたこの言葉を、俺は絶対に忘れたくないし、手放したくはないんだ……」 足を踏み出し、ぬかるんだ大地に足跡を刻む。 雨に流され跡が消えても、滑りそうになりながらも、次の一歩をストレイボウは踏む。 カエルの目が、すうっと細められた。 その大きな口から小さく息を吐き、突き付けた刀を薙いだ。 薙がれた刀身は、しかし、収められてなどいない。 「そんな中途半端な意思でこの俺と対峙したところで――」 カエルが刀を持ち直し腰を落とす。 臨戦態勢に入ったカエルから、闘気が膨れ上がった。 「お前の罪は贖われない! 決してなッ!!」 叫び、跳んだカエルを迎撃すべく。 傍観に徹していたブラッドもまた地を蹴ろうとして。 雨が熱を帯びるのを、肌で感じた。 直後、夜が赤に染められ雨粒が水蒸気へと変じていく。 嫌な予感を覚え、ブラッドはカエルの跳んだ逆側を振り仰ぐ。 そこには、巨大な火柱が屹立していた。 炎は夜を塗り潰し雨を食い潰しマリアベルのレッドパワーすら強引に焼き潰し燃え盛る。 その正体と威力と火力を、ブラッドは知っている。 だから、ストレイボウを伴って火柱とは逆側へと足を向けた。 駆け出す直前に見えたのは、魔王が流麗な動作で指を振る瞬間だった。 従うように火柱が爆音を立てて爆ぜ、熱で作られた紅の舌が夜を舐め上げ焼いていく。 炎の魔手から逃れるべく、ブラッドは駆ける。あの熱量を再び食らうわけにはいかなかった。 「あいつ、正気なのかッ!?」 魔王が放った炎は、彼が戦っていたマリアベルだけを狙ったものではない。 カエルを巻き込むことすら厭わないかのような一撃に、ストレイボウは足を留めていた。 「立ち止まるなッ! 飲み込まれるぞッ!!」 「しかしカエルがッ!」 ストレイボウを走らせようとするブラッドの瞳が、動きを捉える。 慌てふためくストレイボウを翻弄するかのように。 炎の逆側から、赤を映す虹を携えた騎士が疾駆する動きを、だ。 ストレイボウは気付かない。 行動の遂行に捉われすぎて、本当に見なければならないものが見えていない。 「……すまない」 ブラッドは手短に謝罪を告げ、ストレイボウを思い切り突き飛ばした。 炎とは逆の方向――カエルが迫る方へ、だ。 ストレイボウの身が滑り、転ぶように水溜りに突っ込んだ。その勢いで逆巻く炎のアウトレンジへなんとか抜ける。 起き上がろうとするストレイボウを跳び越え、ブラッドはカエルに対峙し、叫ぶ。 「よく見るんだストレイボウッ!」 戦うべき敵にではない。 後ろにいる、魔法使いに、だ。 「炎に呑まれて命を落とすのが、お前の望みかッ!?」 鋭い斬撃を受け止め、回避して。 「何も伝えられず届けられず堕ちるのが、お前の願いなのかッ!?」 重い拳を打ち込みカウンターを繰り出して。 ブラッドは、告げる。 「違うと言うのならば立ち上がれ。曇りを払い自らの瞳で世界を見据え真実を捉えろッ! 違わない程度の――そう、半端な意思しかないのなら。 お前には、カエルを止められないッ!!」 カエルとブラッドの交錯が、終わる。 ブラッドの打撃を受け、カエルが吹き飛んでいた。 剛腕の一撃を受けてなお、騎士は即座に立ち上がる。 「ああそうだ。この俺が、やすやすと、止められるものか……」 そして彼は、刀を振りかざし。 「その男の言うように、立ち上がれないのならば」 雷光を帯び始めた黒雲の空に向けて、またも大きく跳躍する。 「ここで朽ち果てろ! ストレイボウッ!!」 ◆◆ 魔の王。 そう名乗り呼称される所以は、魔族を従えていたカリスマ性だけではない。 底知れない魔力と、あらゆる属性の高位魔法を苦もなく扱う魔法への適応力は、まさに魔王と呼ぶに相応しいものだった。 その凄まじさを、マリアベル・アーミティッジは実感する。 奴は、魔王は。 大火力・広範囲の魔法の使用を躊躇わない。むしろ、積極的に使用する様子すら見て取れる。 一見、カエルを巻き込む可能性を完全に無視しているように見える。 しかしその実、そうではないのだ。 魔王は、魔力を解き放つタイミングをカエルの一挙動ごとに合わせている。 カエルもカエルで、魔王の攻撃範囲を完全に理解した上で、その跳躍力を活かして巻き込まれないよう立ち回っている。 心の声で示し合わせているかのようなコンビネーションは、一つの芸術と言っても差し障りない。 ブラッドをはじめとしたARMSの仲間となら、マリアベルもそれくらいのチームワークを発揮することができる。 だが、それを見せつけられない要因が一つだけあった。 ストレイボウだ。 彼を責めるつもりは毛頭ない。 彼に感謝をしているのは事実であり、仲間だと思っているのは確かであり、カエルを救わせてやりたいと思うのも間違っていない。 ただ、厳然たる現実として。 ストレイボウを巻き込む可能性が、マリアベルに広範囲に渡るレッドパワーの使用を躊躇わせていた。 その躊躇いは、魔王と戦うには重い枷となる。 乱れた呼吸を整える余裕すらなく、マリアベルは魔王を睨む。 圧倒されっぱなしとまではいかなくとも、押されているのは確かだった。 消耗が激しい。 その原因は、強力な魔法をレッドパワーで相殺していることと、魔王が駆使するマジックバリアとバリアチェンジのせいだった。 有効な属性が次々と変化され、効果的な属性で攻撃してもダメージは軽減される。 ディフェンスダウンを使用しマジックバリアの効果は抑えてはいるが、厳しいと言わざるを得ない。 魔王が次なる魔法を繰り出すべく詠唱に入る。 だから、マリアベルは。 それを止めるべく、とあるレッドパワーを放つ。 「パワー……」 効けと願う。通じろと祈る。届けと望む。 強く強く欲し望めばその分だけ、願い通りになる可能性が高まると信じて。 マリアベルは、腕を振り上げた。 「シールッ!」 発生した赤の半球が魔王を包み込む。 レッドパワー、パワーシール。 ダメージは与えられないが、対象の特殊能力を封じる性質を持っている。 通用する保証はない。 しかし通用さえすれば、魔王の力を大きく封じることができる。 半球が、飛び散る。 直後に聞こえたのは、 「――残念だったな」 無慈悲な、魔王の声だった。 「小細工など効かぬ。私は、守られているのだ」 魔王の身から立ち昇る魔力は膨れ上がり、力となって顕現する。 魔力はその姿を、雷へと変えた。 天の唸り声のような低い雷鳴が黒雲の奥で響く。視界を灼く輝きが刹那の間、夜を払う。 耳を劈く轟音が、世界を振るわせた。 雷が、落ちる。 裁きの様を呈した、その雷撃を認識して。 「な――ッ!?」 マリアベルは驚愕する。 予測に反して、魔法の雷が広範囲に降り注がなかったことに驚いたのではない。 一条の稲妻が爪を向けたのは、マリアベルでもブラッドでもストレイボウでもなく。 降下軌道に入ったカエルの――その手に握られた、刀だった。 マリアベルの視線の先、カエルが急速に落ちていく。 先のように、前衛を跳び越えて後衛を叩く攻撃だった。 ストレイボウは泥まみれで、茫然と佇んでいる。 「何をしておるストレイボウ!」 マリアベルが叫ぶ。 それでも、ストレイボウは天を見上げるだけで動かない。 虹色の刀身に稲妻が吸い寄せられる。 切っ先と雷が接触する、その直前に。 カエルは、得物を真下へ投擲した。 重力とカエルの腕力に後押しされた刀は、真っ直ぐ落ちる。 寸分違わず。 ストレイボウの、頭上へと。 レッドパワーで手を打とうにも間に合いそうにない。 「ストレイボウッ!」 絶叫し、走る。 走っても間に合わないと分かっていながら、動かずにはいられなかった。 駆けるマリアベルよりも遥かに早く、ストレイボウに触れるものがある。 それは、刀でも雷でもなく。 ブラッド・エヴァンスの、大きな体だった。 突き飛ばされたストレイボウが更に泥まみれになりながら、地面を転がる。 そして。 「ブラッドッ!!」 マリアベルが呼ぶ名が、変わる。 一瞬だけこちらを振り向いたブラッドの、左肩に。 虹色の刀が深々と突き刺さって。 その刀を避雷針にするかのように。 魔王が編んだ雷が、ブラッド・エヴァンスへと直撃して。 長髪の巨体は、声を上げることすらなく。 泥混じりの水たまりを跳ね上げて、崩れ落ちた。 「ブラッド……ッ!!」 心臓が思い切り引き絞られる。 雨に濡れ冷やされた体が、ゾクりと震えを上げる。 喉の奥が、得体の知れないもので詰まったような気がした。 マリアベルは駆ける速度を上げる。 ブラッドならば大丈夫。 そう信じたくとも、鼓動は不愉快なほどに逸り気持ちはどす黒い不安に侵食されていく。 無事であると楽観する要素が、少なすぎた。 刀はブラッドの巨体を確実に貫いているし、落雷は確かにブラッドを襲った。 その証拠に。 倒れ伏したブラッドは、動かない。 マリアベルは唇を噛んで駆ける。 その進路上に。 長髪の影が、翻る。 魔鍵ランドルフを得物として、魔王がマリアベルに肉薄する。 魔力が枯渇したのか、あるいは。 近接戦闘の要を潰したと判断し、突っ込んできたのか。 どちらにせよ。 立ちはだかる魔王を、迎撃し突破しなくてはならない。 だからマリアベルは、使い慣れないナイフを引き抜いた。 止まない雨はと重苦しい黒雲は、不吉な予感を呼んでくる。 こんなときに、いや、こんなときだからこそ。 星空を見たいと、マリアベルはそう思った。 時系列順で読む BACK△110-4 シャドウ、『夕陽』に立ち向かう(Ⅳ)Next▼109-2 夜雨戦線 -Real Force- 投下順で読む BACK△108-2 暴かれた世界(後編)Next▼109-2 夜雨戦線 -Real Force- 106-2 届け、いつか(後編) ユーリル 109-2 夜雨戦線 -Real Force- ピサロ ロザリー アキラ イスラ アナスタシア ブラッド マリアベル ストレイボウ カエル 魔王 ジョウイ ▲
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~第一章 進化の秘法~ 魔王 名前 HP(1P) HP(2P) 1P時出現大魔王 備考 キングスライム 2200 3650 - バベルボブル 2400 3980 - プラチナキング 998 1360 - ギガントドラゴン 2900 4900 - ドン・モグーラ 2500 4000 - ピサロ 4900 6100 デスピサロ、真・デスピサロ 大魔王 名前 HP(1P) HP(2P) 2P時対応背景 備考 デスピサロ 5900 7000 ロザリーヒル 真デスピサロ 6800 7600 ロザリーヒル デスピサロが30体以上倒されている台のみ エスターク 5100 7600 溶岩洞窟 デスピサロが30対以上倒されている台のみ 真エスターク 6800 8400 溶岩洞窟 エスタークが15体以上倒されている台のみ
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イベントスチル1 平日選択イベント4において、妹がソファであぐらをかいて、棒アイスを食べているシーン。 風呂上りなので、薄着(部屋着の中に着てる服をなくした感じくらいでいいかも) 上から覗き込んだら胸が見えそうになるくらいのちょっとした隙間があったりで。 アングルについては、構図に詳しくないのでうまく指定できません。 もし描けないよ! ってことなら、必死に考えます。
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出港所 出港所 [#peebe2bf] 物資・船員 [#ne18b81e] レース [#qc4dc099] 概要 [#k4c3ebd7] 賞品 [#vd573020] 開催情報 [#bfe48870] 拠点回航-定期船-運河輸送船 物資・船員 補給スキルで安くなります。 物資は場所により値段が変わります。 弾薬は国の影響度を受けます アイテム名 価格 説明 水 8 飲み水。なくなると疲労度が激増する。 食料 59 航海用の保存食。なくなると疲労度が激増する。 資材 86 船体の耐久度を回復するための木材。 弾薬 162 大砲用の砲弾。不足すると砲撃ができない。 新米船員 50 練度0忠誠30 中堅船員 200 練度30忠誠40 熟練船員 1000 練度60忠誠50 レース 概要 目的地までの到着タイムを競います。途中で寄港した時間などもすべてタイムに加算されます。レースは世界のどこかの街で、7日間単位で開催されています。 出場するには、開催街の出航所役人・出航所案内人に話しかけて、「レース情報」をクリックしてください。 賞品 目的地に到着し、その港の出航所役人に話しかけると、レース参加記念ロットを数枚もらえる。 開催期間が終了した時点でランキングに残っていると、出航所役人からレース情報を確認した際に賞品をもらえる。 ※以下は仮のテーブル。順位に関わらず同じ賞品の可能性もある。 順位 賞品 1位 2位 3位 4〜5位 6〜10位 魔術の刻印3個 10位 ブイヤベース10個 開催情報 期間 Euros Zephyros Notos Boreas 2009/01/28〜2009/02/04 セビリア→リガ 2009/02/18〜2009/02/25 マルセイユ→サントメ 2009/03/04〜2009/03/11 リスボン→アビジャン 2009/03/18〜2009/03/25 ロンドン→カサブランカ 2009/03/25〜2009/04/01 ヴェネツィア→サンジョルジュ 2009/04/01〜2009/04/08 ロンドン→ピサ マルセイユ→ブレーメン アムステルダム→アンコナ 2009/04/08〜2009/04/15 ヴェネツィア→ルアンダ 2009/05/13〜2009/05/20 セビリア→サンジョルジュ ロンドン→ピサ 2009/05/20〜2009/05/27 リスボン→アルギン 2009/06/03〜2009/06/10 アムステルダム→ピサ 2009/06/10〜2009/06/17 リスボン→ハンブルク 2009/06/17〜2009/06/24 アムステルダム→ナポリ リスボン→ハンブルグ セビリア→ダンツィヒ 2009/06/24〜2009/07/01 ロンドン→ジェノバ 2009/07/08〜2009/07/15 リスボン→ベイルート 2009/07/15〜2009/07/22 ロンドン→カルヴィ 2009/07/22〜2009/07/29 セビリア→ハンブルグ 2009/07/29〜2009/08/05 アムステルダム→シラクサ 2009/08/05〜2009/08/12 セビリア→ドゥアラ 2009/08/19〜2009/08/26 セビリア→アントワープ 2009/08/26〜2009/09/02 アムステルダム→アンコナ 2009/09/02〜2009/09/09 ヴェネツィア→サンジョルジュ 2009/09/16〜2009/09/23 セビリア→ダンツィヒ 2009/09/23〜2009/09/30 ヴェネツィア→ベンゲラ 2009/10/21〜2009/10/28 マルセイユ→ベニン 2009/10/28〜2009/11/04 マルセイユ→ブレーメン 2009/11/04〜2009/11/11 リスボン→サントメ 2009/11/18〜2009/11/25 ロンドン→カリアリ 2009/11/25〜2009/12/02 セビリア→アントワープ 2009/12/02〜2009/12/09 ヴェネツィア→ベニン 2009/12/09〜2009/12/16 アムステルダム→アンコナ
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百詩篇第6巻 26番 原文 Quatre ans1 le siege quelque2 peu bien tiendra3, Vn suruien ra4 libidineux de vie5 Rauenne6 Pyse7, Veronne8 soustiendront9, Pour esleuer la croix10 de11 Pape12 enuie. 異文 (1) ans an 1557B (2) quelque que 1557B (3) tiendra yra 1588-89 (4) suruien ra 1557U suruiendra T.A.Eds. (5) vie Vie 1653 (6) Rauenne Ravenna 1672 (7) Pyse Pese 1568C, pise 1665 (8) Veronne Verrone 1981EB (9) soustiendront soustiendra 1588-89 1611B 1981EB (10) croix Croix 1672 (11) de du 1649Ca 1650Le 1668 (12) Pape pape 1665 校訂 2行目 suruien ra は明らかに d の脱漏で、suruiendra (surviendra) が正しい。 4行目 enuie (envie) をブリューノ・プテ=ジラールは en vie と校訂している。ただ、彼のテクストを踏襲しているリチャード・シーバースも英訳に際して desire を当てており、en vie とする校訂を支持していないことが明らかである。 日本語訳 四年間、いくらか立派な人物が御座を保つだろう。 生活の不品行な一人が後に続くだろう。 ラヴェンナ、ピサ、ヴェローナは支持するだろう、 十字架を掲げたいという教皇の熱望を。 訳について 2行目 surviendra survenir を「後に続く」の意味にとるのはあまり一般的ではないが、エドガー・レオニ、ピーター・ラメジャラー、リチャード・シーバースが一致して succeed と英訳していることを踏まえた。 既存の訳についてコメントしておく。 大乗訳について。 1行目 「四年間彼は教皇の座をよくまもり」(*1)は不適切。le siege (椅子、座) が教皇の聖座を指しているというのはほぼ異論のないところなので、「教皇の」を補うことには何の問題もないものと思われるが、quelque peu (幾らか、少々) が訳に反映されていない。 2行目 「好色な生活を続ける」は不適切。2行目の主語は un で、その形容が行の後半に位置しているのである。 3行目 「ラベンナ ピサはベロナの一部となり」も不適切。仮にヴェローナを目的語とするにしても、「ラヴェンナとピサはヴェローナを支えるだろう」とでもすべきだろう。 4行目 「教皇の十字架をひきあげる」は pour も envie も訳に反映されていない。 山根訳について。 2行目 「跡を継ぐのは色を好む男」(*2) は de vie (生活の、生命の) が訳に反映されていない。 3行目 「ラヴェンナ ピーサ ヴェローナが彼を支持するだろう」は意訳としては許容されるかもしれないが、「彼」が原文にない。むしろ、3行目の目的語は4行目全体と見るべきだろう。 4行目 「法王の十字架の価値を高めたいのだ」 は envie が訳に反映されていない。de Pape は確かに基本文法通りなら croix に係らせるべきだろうが、むしろ語順を整えて envie de Pape pour enlever la croix と理解すべきだろうし、実際、ラメジャラーやシーバースの英訳ではそう理解されている。 信奉者側の見解 テオフィル・ド・ガランシエールは、ほとんどそのまま敷衍したようなコメントしかつけていなかった(*3)。 その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、ジャック・ド・ジャン、バルタザール・ギノー、D.D.、テオドール・ブーイ、フランシス・ジロー、ウジェーヌ・バレスト、アナトール・ル・ペルチエ、チャールズ・ウォード、マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)、アンドレ・ラモン、ロルフ・ボズウェル、ジェイムズ・レイヴァーの著書には載っていない。 エリカ・チータムは、4年半在位した教皇ヨハネス23世 (在位1958年 - 1963年) とそれを継いだパウルス6世 (在位1963年 - 1978年) としていた(*4)。この解釈はジョン・ホーグも踏襲した(*5)。 セルジュ・ユタンはナポレオン3世と解釈した(*6)。詳述していないので細かい対応関係が分からないが、おそらく「4年」は第二帝政開始直前の第二共和政が約4年(1848年2月 - 1852年12月) だったことと結びつけたのだろう。 ヴライク・イオネスクは教皇ヨハネ・パウロ2世 (在位1978年 - 2005年) の次の教皇が選出されるときに、問題のある人物がもう一人選ばれる事態になることの予言としていた(*7)。これは外れたが、イオネスクはヨハネ・パウロ2世の在位期間に没したので、改訂された解釈などが出されることはなかった。 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは、1行目を教皇ピウス6世 (在位1775年 - 1799年) の在位期間末期の4年間およびその途中で起こった教皇のローマからの追放と解釈した(*8)。 同時代的な視点 4行目の「十字架を掲げる」が十字軍を組織する意味であろうということは、エドガー・レオニやピーター・ラメジャラーが指摘している。 特にラメジャラーは、4年在位した「ユリウス3世」と、第三次十字軍を組織したグレゴリウス8世 (在位1187年) のことだと指摘している。ユリウス3世 (在位1550年 - 1555年)は時期が離れすぎている上に4年の在位でもないので、おそらくそれはルキウス3世(在位1181年 - 1185年) の誤りだろう。 ルキウス3世は4年2ヶ月ほどの在位で、「真正直な人だったと言われ」(*9)ているので、確かに1行目には当てはまる。彼は神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世から第三次十字軍参加の約束を取り付けることに成功するが、彼の治世には十字軍派遣は実現せず、教会会議を開催した地ヴェローナで没した。 その次の教皇ウルバヌス3世 (在位1185年 - 1187年) のときは、教皇から見てフリードリヒ1世が縁者を殺した仇敵であったため、教皇と皇帝の対立が深まるばかりで十字軍計画に進展はなかった。 しかし、グレゴリウス8世はイスラーム勢力によるエルサレム再占領の直後に教皇に選出されたことから、十字軍遠征に強い意欲を抱いていた。そして、その遠征の下準備として、当時強大な海軍力を有していたピサとジェノヴァの対立を解消しようとピサを訪れた際に客死した。 第三次十字軍は次のクレメンス3世 (在位1187年 - 1191年) のときに実現したが、足並みが揃わず失敗に終わった(*10)。 グレゴリウス8世がルキウス3世の直後でないことや、(ラメジャラーも認めるとおり)グレゴリウス8世には私生活上の問題が指摘されていないことなど、若干整合しない要素はあるが、ある程度の一致が見られるのは事実だろう。 なお、上で触れたとおり、実際に十字軍を派遣したクレメンス3世も在位4年である。その次の次に教皇になったのが、クレメンスの甥であり中世の教皇の中で突出した知名度を誇るインノケンティウス3世である。彼は第4回十字軍とアルビジョワ十字軍の派遣に関わっており、想定外の結果に終わった悪名高い第4回に続く新たな十字軍の派遣も模索していた。 ある程度の一致ということで言うのなら、こちらの組み合わせも相応に興味深いように思われる。 ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。
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其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg ――何も抱けないものは、どうすればいい。 ――求めても手を伸ばしても希っても望んでも。 ――そうやって足掻いても、何ひとつ手に入れることができないのならば。 ――いったい、何ができるというのだ。 ◆◆ ______ |部隊編成 |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・キャラクター選択 __________ | アキラ | | アナスタシア | | イスラ | | カエル | | ストレイボウ | |→ピサロ |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・部隊メンバー __________ | | | | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ___ |決定|  ̄ ̄ ̄ ・キャラクター選択 __________ |→アキラ | | アナスタシア | | イスラ | | カエル | | ストレイボウ | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・部隊メンバー __________ |☆ピサロ | | | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ___ |決定|  ̄ ̄ ̄ ・キャラクター選択 __________ | アナスタシア | | イスラ | | カエル | | ストレイボウ | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・部隊メンバー __________ |☆ピサロ | | アキラ | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ___ →|決定|  ̄ ̄ ̄ ◆◆ もうもうと立ち昇るのは、煙と蒸気だった。灰色の煙は空を舞う。蒸気は高熱の霧となる。 そうして大気は、煤臭さと油臭さが孕まされ、熱を帯びていく。 壊れゆきながら嘆きを叫ぶ、たったひとつの異様を中心として、だ。 内燃機関が悲しみを吼え、駆動部各所が虚しさを訴え、無数の歯車が痛みを叫喚する。 狂騒たる音の集合は、つまるところなきごえだった。 顧みられることなく滅びるはずだった、異様たる偉容――砂喰みに沈む王城が上げる、矜持を掛けたなきごえだった。 王城は往く。 傷ついた外壁に構うことなく、壊れた駆動部を酷使して、嘆きのままに行進する。 岩石が合成された人形と、下半身を黒球に埋めた人形と、倒れることを知らない不死の兵を率いて。 ただただ王城は進む。その身が砕けても、崩れたとしても、止まることなどありはしない。 「城を手にし王を気取るか。成り上がったものだな」 滅びゆく王城と対峙するのは、かつて魔族の王として君臨していた男だった。 もはや王たる身ではないとはいえ、その高潔さは喪われていない。そんなピサロにとって、王城など恐れるものではない。 城など所詮、王の所有物でしかないのだ。 ならば止める。未だ潰えぬ誇りに掛けて止めるべく、ピサロはこの場で武器を取る。 「気に入らねェよ……」 そのピサロの隣で、アキラが、絞り出すように吐き捨てる。 彼は、灼熱する感情を宿した瞳で、真っ直ぐに軍勢を睨みつけていた。 「なんだよアレは。なんなんだよアイツらは……ッ!」 アキラの拳は、わなわなと震えていた。 掌に爪が食い込むほどに握り込んでも、その震えは止まりはしなかった。 アキラの網膜に入ってくるのは、自壊しながら迫る王城と、そして。 王城と共に進撃し、王城の移動に巻き込まれて潰される亡者たちの姿だった。 屑のように潰された亡者たちは再生し、もう一度進軍を開始する。 けれどその一部はまたも王城によって破壊され、再度蘇り、行軍を繰り返す。 歪に狂い、圧縮された輪廻を思わせるその光景は、地獄としか思えなかった。 「この果てにッ! こんな地獄の果てにッ! お前の望んだものがあるのかよッ!!」 返答などあるはずもない。 それでもアキラは、叫ばずにはいられなかった。 「認めねェ。俺は絶対に、こんなものは認めねェッ!」 アキラを震わせるのは怖れではない。 疲労もダメージも焼き尽くすほどに、激しく燃え盛る怒りだった。 「猛るのは構わん。だが、愚かにも吶喊だけはしてくれるな。我らの目的はあの城の足止めだ。奴らがケリを付けるまで、あれを止める」 亡霊城より先行し、まとわりついてくる亡霊兵を駆逐しつつ、ピサロは告げる。 その声は冷静で、熱くなる感情をいくらか冷ましてくれた。 「……ああ、気をつける。ここで突っ込んで死ぬなんざ、御免だからな」 「死にたくなくば自分の身は自分で護ることだ」 冷たい言葉に、アキラは頷きを返し、ふと呟く。 「それにしても、あんたが足止めを買って出るなんて意外だったぜ」 そんなアキラの感想に、ピサロは不機嫌そうに息を吐いてみせた。 「腑抜けた奴らを連れてはあの城を止められまい。奴らにはさっさとケリをつけて貰わねば困る」 その手に握るバヨネットに魔力が装填されていく。 「演習の際に見せた意地が仮初でしかないのも」 その横顔からは、感情は読み取りづらい。 「ロザリーの想いを形にした行為が、“あれ”と一緒にされるのも」 ただその声音からは、失望の色は見て取れなかった。 「不愉快極まりないのでな……ッ!」 だからやってみせろと。 この場にいないものたちを、挑発するように告げて。 そうしてピサロは、迷うことなく引鉄を引いたのだった。 ◆◆ ______ |部隊編成 |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・キャラクター選択 __________ | アナスタシア | | イスラ | |→カエル | | ストレイボウ | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・部隊メンバー __________ | | | | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ___ |決定|  ̄ ̄ ̄ ・キャラクター選択 __________ |→アナスタシア | | イスラ | | ストレイボウ | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・部隊メンバー __________ |☆カエル | | | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ___ |決定|  ̄ ̄ ̄ ・キャラクター選択 __________ | イスラ | | ストレイボウ | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・部隊メンバー __________ |☆カエル | | アナスタシア | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ___ →|決定|  ̄ ̄ ̄ ◆◆ ぐしゃりとした手応えと、べちゃりとした手応えと、薄布をなでたような手応えが、刃を通じてまとめて感じられた。 投石をアガートラームで弾き敵陣へと真正面から突っ込んだアナスタシアの一閃により、アンデッドたる兵が数体、まとめて薙ぎ払われて崩れ落ちる。 すぐに、アナスタシアは振り返る。 離れた箇所に展開した亡霊部隊によって投擲された石礫が、アナスタシアへと迫っていた。 「ルシエドぉッ!」 跳躍した魔狼が石礫を叩き落とす。 だが、ミスティックによってチカラを引き出された石は、貴種守護獣にさえも手傷を負わせる。 石を迎撃した前脚には傷がつき、爪が割れ、血液が飛び散った。 亡者とは思えない統率された動きで、兵士は、機を得たりというばかりに次々と石を投げてくる。 たかが石ころ。されどその一つ一つが、致命傷となり得る武器だった。 まるで、路傍の石として顧みられず朽ちることを良しとしないかのように。 まるで、見向きもされなかった石ころが、その意地を見せつけるかのように。 「ルシエド、下がってッ!」 アナスタシアが叫んだ直後、ルシエドの姿がかき消える。 ルシエドを呼び戻したことで、投石部隊がアナスタシアへと狙いを済ませる。 そうして狙いを変える隙を付き、一気に距離を詰めるべく地を踏みつける。 その足が、掴まれた。 白骨の五指が、アナスタシアの足を掴み取る。 それは先ほど、アナスタシアがなぎ払った兵のうちの一つだった。 それを中心として、倒した兵が起き上がる。 忘れるなというように。目にもの見よと、いうように。 その様に、アナスタシアは、心の底から嫌悪感を覚えた。 「こン、のッ!」 アガートラームを振りかざし、蘇った兵を容赦無く砕く。 それでは足らないといように、戻したルシエドを聖剣として顕現させる。形状は短剣。 小さい分、数を増やしたそれを、頭上に浮かばせるようにして呼び出して、降り注がせる。 流星のように流れ落ちる聖剣は、亡霊兵たちを刺し、突き、貫き、砕き、壊し、破壊し破砕し貫通する。 アナスタシアが思うままに、望むままに、亡霊兵を執拗に攻撃する。 蘇ってくれるなと、二度と起き上がってくれるなと、そう願うように聖剣が降る。 そうだ。 死者は蘇るものじゃない。どんなことをしても、帰ってくるものなんかじゃない。 決して、ぜったいに、なにがあっても。 戻ってくるものなんかじゃ、ない。 そうでなくては困る。 そうじゃ、なきゃ。 過去<うしなったもの>に手を伸ばしてしまう。 だからアナスタシアは否定する。目の前で蘇り続ける亡者を否定する。 そんなアナスタシアを嘲笑うように、亡者の群れは蘇る。我らはここにいると見せつけるように蘇生する。 刮目せよと。 貴様が起こした奇跡は、この光景と同質なのだと。 亡者どもは、アナスタシアの否定以上に執拗に、囁いてくるのだ。 故にアナスタシアは剣を握る。 蘇りの果てへと至るべく、剣を振るう。 そして。 それだけの時間は、狙いを定め直された石つぶてが、アナスタシアへ飛来するには充分だった。 生存本能が危機を察知するが、遅い。 不死者を破壊し尽くすことに意識を割き切っていたせいで、プロバイデンスもエアリアルガードも、回避や防御でさえも間に合わない。 その身は、完全にガラ空きだった。 見開いた瞳に、大きくなっていく石つぶてだけが映り込む。 その石つぶてが、アナスタシアの目の前で。 まとめて、弾き飛ばされた。 横合いから、弾丸のように飛び込んできた剣によって、だ。 その剣は弧を描くように大気を薙ぎ、アナスタシアを狙っていた投石部隊を急襲し、逃げ損ねた不死者たちを沈黙させる。 剣の柄には、両生類の舌が巻きついていた。 その舌が、まるでゴムのように、主へと戻っていく。 「落ち着け」 覆面の奥に舌を戻し、カエルは剣を手にする。 その様子は安っぽい怪奇小説に出てきそうなくらいには不気味であったが、それに言及する余裕を、アナスタシアは持ち合わせていなかった。 「助かったわ」 ただそれだけを告げて、アナスタシアは、聖剣ルシエドの連撃を受けてなお立ち上がろうとする、足元の骨を苛立たしげに踏み潰した。 「落ち着けと言っている」 カエルはアナスタシアの側まで跳んでくると、先の斬撃で仕留め損ねた兵が投げた石を迎撃する。 「放っておいたらまた復活するでしょ。だからこうして、動ける敵を減らさないと……ッ!」 「守りも固めずにか?」 カエルに弾き飛ばされた石が、地面を穿った。 「たかが石と侮るな。これはもう、弾丸だ」 「わかってる。わかってるわよそんなことはッ!」 当たり散らすように怒鳴りつけるアナスタシアに、カエルは溜息混じりで返答する。 「分かっているならば冷静になれ。苛立ちを抱えて勝てる戦ではない。戦に勝てなければ生き残れない」 カエルは淡々と告げる。 その淡白さが、当然の事実であると如実に表していた。 「生きるのだろう?」 アナスタシアの奥歯が、ぎりっと音を立てた。 「……生きたいわよ」 絞り出すようなその声は弱音めいていた。 「生きたいの。生きたいわよ! けど、だけどッ!!」 その欲望に揺るぎはない。生を求める衝動に偽りはない。 なのに、アナスタシアは揺れていた。彼女の内で揺れているのは、生き方だった。 「わたしは、弱いのよ……」 そう零すアナスタシアの目の前で、亡霊兵が何度目かの蘇生を果たす。 「わたしは死者に縋った。想いを集めて、戻ってくるはずのない命を、一時的とはいえ、かえしてしまった」 けれどアナスタシアは亡霊たちを見つめるだけだった。 「ジョウイくんと、同じように」 くすんだ瞳で、見つめるだけだった。 「否定できなかった。違うって、言えなかった」 距離を取る亡霊兵たちを、アナスタシアは、翳る瞳でぼんやりと追う。 「だって、いいなって思うんだもの。うらやましいなって、思っちゃうんだもの」 遠ざかった亡霊兵が、石を拾い上げる。 「また逢いたいって、望んじゃうのよ」 その更に向こうに、哄笑を上げるビジュだったものが目に入った。 死んだはずの人間が、人とは思えぬ姿となりながらも、確かにここで嗤っていた。 「新しい“わたし”をはじめるって、そう決めたのに」 鼻の奥が、やけに湿っぽかった。 「なのに。ねえ、どうして――」 胸の底が、いやにかさついていた。 「つよく、なれないの? かっこよく、なれないの?」 呟いた直後、投石が殺到する。 身体が動くままにそれを弾く。だが、アナスタシアは駆けられなかった。 投石を繰り返す敵の元へと、駆けることができなかった。 ◆◆ ______ |部隊編成 |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・キャラクター選択 __________ | イスラ | |→ストレイボウ | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・部隊メンバー __________ | | | | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ___ |決定|  ̄ ̄ ̄ ・キャラクター選択 __________ |→イスラ | | | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・部隊メンバー __________ |☆ストレイボウ | | | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ___ |決定|  ̄ ̄ ̄ ・キャラクター選択 __________ | | | | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ・部隊メンバー __________ |☆ストレイボウ | | イスラ | | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ___ →|決定|  ̄ ̄ ̄ ◆◆ 笑い声が、耳の奥でこだまする。 厭な声だった。 下卑ていて品がない、その声は、聞くに耐えないものだった。 もう聞くことはないと思っていた。聞かなくてもいいと思っていた。 そう思い込むことで、蓋をしてしまおうといていたのかもしれない。 けれどそれは破られた。 不意打ちで、蹴破られたのだった。 【ゲヒ、ゲレ、ゲイヒヒヒヒヒレレレレッ!!】 記憶でもない。幻聴でもない。 今この耳が、この嗤い声を捉えている。 粘性の液体から湧き出てきたような人形と、鳥と爬虫類を掛け合わせたような人形を侍らせて。 そいつは、嗤い続けている。 その耳障りな声に合わせ、亡霊兵が組織立った動きで投石する。 ストレートに飛んでくる豪速の石が来る。放物線を描き頭上から石が落下する。曲線軌道を描き、側面から襲ってくる石がある。 速度も軌道もまちまちながら、投げられた石らは決して互いを食い合わない。 統率された遠距離攻撃は緻密に精密に、イスラとストレイボウを狙い撃ってくる。 亡霊兵は疲労を覚えず、攻撃は乱れない。 故に、その統率を乱すには、打って出る必要があり、 「レッドバレットッ!」 そのための魔力が、ストレイボウから膨れ上がった。 紅の火球が複数、枷から解き放たれた獣のように飛び上がる。 火球は石を迎撃し撃ち落とし、そのままの勢いで亡霊兵へと突っ込んだ。 爆ぜる。 陽炎を立ちめかせながら燃え盛る業火に灼かれ舐められ、亡霊たちは崩れ落ち、投石の壁が薄くなる。 それは、駆け抜けるには充分な空隙だった。 「走るぞッ!」 ストレイボウの叫びに後押しをされるようにして、イスラは地を蹴った。 得物を銃に持ち替え、荒れた土を踏み抜く。火炎から逃れた兵の投石を避けて駆け抜ける。 耳元に突然、生温い気配が現れた。 【ゲレレレレッ……ヒヒ、ゲレレレ、レレヒッ!】 その気配が放つ耳障りな哄笑が、真横から響き渡った。 背筋を猛烈な悪寒が駆け抜ける。それは危機感であり、嫌悪感であり、そして。 十字架の重さだった。 その重さは、イスラの意識を強引に引っ張っていく。 ダメだと、見るなと、そういった気持ちを軒並み押し潰して、イスラの顔を隣へと向けさせた。 「っ!」 ぐずついた泥を固定剤にしてバラバラに捏ね合わされた、ビジュのようにもタケシーのようにも見える、顔と呼ぶには余りにも冒涜的な物体が、視界いっぱいへと飛び込んでくる。 あり得ない場所に接合された目が、泥を零しながらギョロギョロと動き回る。 【イヒッ、イヒヒヒヒヒヒッ……ヒヒ、ゲレレレ、イヒヒラララ!】 その瞳が、イスラの視線と交差した。 【ゲラゲレレレレレヒヒヒヒ、ゲレレヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!】 かろうじて口の形を保った裂け目が開き、泥を撒き散らしながら声をあげる。 そのおぞましさに、意識が灼きついた。 足が止まり手ががたつく。目が見開かれ冷や汗が滲む。喉がかさかさになって胃が締まる。酸味めいた臭いがせり上がる。 大きな背中が、撫でてくれた手が。 笑えるかもしれないと想った、オスティアの幻想が。 かけがえのない、想い出が。 翳り、崩れ、遠ざかり。 全身が、虚脱する。 「イスラッ!」 崩れ落ちそうになる寸前で、ストレイボウの声がイスラを支えた。 残っている力を意識し、取り落としそうになったドーリーショットを握り締めて銃口を突き付ける。 笑いながら離脱する反逆の使徒に狙いを定め、引き金に指をかけて。 ビジュを斬った記憶が、鮮明にフラッシュバックした。 体から落ちる首。 溢れ出る鮮血。 むせ返るように濃厚な、ちのにおい。 そして。 楽しそうな、笑い声。 あのとき、あの瞬間。 ――どうして、僕は、笑っていたんだ。 指が凍りついたかのように動かない。 銃を握るその手には、ビジュを殺したときの感触が、生々しく蘇っていた。 ――役立たずだと、どの口が断じられた? ビジュだったもの<笑いながら殺した相手>に向けた銃が、震える。 もう一度殺すのか。 こんな身になってまで、それでも願ってここにいるこの男を、もう一度殺すのか。 そう願わせたのは、だれだ。 ――いま、僕は。いったい、どんな顔をしている? 想像した瞬間、怖くなった。 銃口を、向けていられなくなった。 そうしていることが、拭えない罪のような気がした。 悠々と距離を取った反逆の使徒が、これ見よがしに手裏剣を取り出すのが見える。 【イヒ、ゲレヒヒ……】 構える。 【ゲラゲレレレレレヒヒヒヒ、イヒヒヒヒヒヒヒッ】 投擲される。 その一連の動作を、イスラは呆然と眺めていた。 イスラの意識は、もはやこの場所にはなかった。 だから、気付かなかった。 周囲に、冷気が立ち込めていることに、だ。 その冷気は導かれるように収束し固形化する。 空気にヒビを入れるかのような音を引き連れて分厚い氷が現れ、イスラを囲う。 投具や投石から、イスラを守るように。 イスラと反逆の使徒との間を、遮るように。 氷壁の表面は、鏡のように顔が映り込んでいた。 蒼白となったイスラの顔が、映り込んでいた。 「イスラ! 無事かッ!?」 掛けられた声で、その氷壁がストレイボウの魔法によるものだと、ようやく気付く。 瞬間、イスラの足から今度こそ力が抜けた。武器を、取り落とす。 焦点がぼやけ、何を見ているのかが分からなくなる。 「僕は、僕は……ッ!」 うわごとのように呟くイスラを嘲笑うように。 へたり込むその姿が、見られているかのように。 氷壁の向こうからは、笑い声が響き続けていた。 ◆◆ 不死なる兵どもは、雑兵と切って捨てられる程度の実力だった。 その程度の者がどれほど集まろうと、ピサロの足は一切止まらない。 纏わりついてくる敵をバヨネットの一振りで斬り伏せ、真空波で吹き飛ばして疾走する。 進路上に立ちはだかる兵へと走る勢いのまま刃を突き立てる。その身を貫いて引鉄を引く。 光線のように収束した魔力が射出され、背後に並んだ敵を射抜き切る。 機械部品が展開し排熱の蒸気が立ち上る。その蒸気を払うようにしてバヨネットを横に薙ぎ、側面からの襲撃者を討ち取る。 パラソルの魔力補助がなくなり機械側の負担が大きくなった分、近接武器としての取りまわしやすさは向上していた。 そうしてピサロは雑魚を蹴散らし到達する。 バヨネットとは比べ物にならないほどの蒸気を上げる、巨大な敵将に攻撃が届く、ギリギリの射程圏内に、だ。 そしてそこは、敵将の攻撃がピサロに届く場所でもある。 副将を控えさせて前に出るその敵将の左腕<左回廊>が、唸りを上げて縦回転する。 鋼鉄の外壁がへし曲がり擦れ火花が散り、蒸気が溢れ返る。 左腕<左回廊>を支点にし、挙げるように。 地に付いていた左手<左塔>が、跳ね上がった。 猛烈な砂塵が巻き上がる。それは蒸気で吹き飛ばされ、悪夢めいた砂嵐を作り出す。 だがそれは、攻撃の副産物でしかない。 本命の一撃は、左手<左塔>による突上打だ。 ピサロはバヨネットの砲口を左に向け、右へ跳躍する。跳ぶと同時に発砲、爆風に乗って距離を稼ぎ、亡霊城の外側へ。 直後、轟音と共に左手<左塔>の突上打が眼前を通過した。 復活を果たしピサロへとまとわりつこうとしていた兵を軒並み潰して、左手<左塔>が天を衝く。 スケルトンが粉々になりグールが肉片と化し亡霊兵が空へと消える。 それは、必殺の一撃と呼ぶことすら生ぬるかった。 熱っぽい湿り気を帯びた砂嵐がピサロを襲う。咄嗟に左手で庇うが、蒸気を帯びたそれは皮膚を侵していく。 そこへ、長い影が落ちる。 鉄と鉄が擦れ合う不快な轟音を重ねて、摩擦による火花を撒き散らして、亡霊城は旋回する。 鉄塊と呼ぶにはあまりにも巨大すぎる左手<左塔>を挙げたままで、だ。 次の動作など、予測するまでもなかった。 だからピサロは即座にバヨネットを掲げる。その指に魔力と、絶えぬ想いを注ぎ込む。 魔導アーマーのパーツにチカラが流し込まれる。回路が励起し光を帯び、バヨネットの砲口に輝きが収束する。 その輝きは蒼。究極の名を冠する魔力光。絶えぬ想いをエネルギーとする、極まった力の奔流。 「アルテマ――」 それを前にして、王城は動く。 左腕<左回廊>の回転を逆にし、悲痛な軋みを迸らせ、打ち上げた左手<左塔>を動かす。 単純な話でしかない。 挙げた左手<左塔>を、今度は振り下ろすだけだった。 超重量の一撃の初動。それを前にしても動じず、ピサロはトリガーを引く。 「――バスター」 究極光が、解き放たれる。 球状に広がるエネルギーは、左手<左塔>と正面からぶつかり合う。 鋼鉄の腕を受け止め、その外壁を引っぺがし、もはや使う者のいない内装を吹き飛ばし、壁を床を柱を食い尽くす。 左腕<左回廊>から左手<左塔>までの居住スペースが完全に吹き飛ばされ、錆びた内部フレームと砂を噛む駆動機構が露わになる。 王城のなきごえが、ひときわ大きくなった。 剥き出しになった内部機構の各所で、無数の火花が舞い踊る。それは、いのちを燃やしているかのようだった。 アルテマバスターの輝きは、フレームをひしゃげさせて歯車を砕く。 それでも、左手<左塔>は止まらない。止まるはずもない。 ボロボロになりながらそれは、重力を味方につけて、光の奔流を割って来る。 「ち……ィッ!」 止め切れないと判断したピサロはバヨネットを下げる。 手を掲げ力を込め、心に満ちる“想い”を意識し、ラフティーナの力を呼び起こそうとして。 左手<左塔>の軌道が、ブレた。 ピサロを真上から狙うコースだったはずのそれが、アルテマバスターの光を斜めに斬るようにして、滑って行く。 左手<左塔>が、空を切って地を叩く。鋼鉄の巨腕に打撃された大地が、怯えるように揺れた。 ピサロを潰すはずだった左手<左塔>が岩石を破砕し地面を引き裂き痕を刻みつける。跳ね上がった石片が歯車に噛み潰されて砂礫と化す。 いつの間にか城は、ピサロに背面を向けていた。 ピサロの口角が、吊り上がる。 この場で戦っているのは、ピサロだけではない。 城の背面に、再度バヨネットを突き付ける。 トリガーに指を掛けて、ピサロは、それが引けないことに気付く。 魔力の増幅と制御を行っていたパラソルなしで放ったアルテマバスターは、莫大な負荷をバヨネットに掛けていた。 機械部品が完全にオーバーロードしており、魔力を流しこめそうにはない。 これを利用して魔力を射出するには、時間が必要なようだった。 舌打ちをし、稼働する王城を睨む。 かなりのダメージを与えたとはいえ、まだ左腕<左回廊>の駆動部は生きている。 この程度では、じきにあの城は嘆きのままに進撃を再開するだろう。 思案する。 なにせ相手はあの巨体。この身では近寄ることすらままならない。 だが、手はある。 要は、蒸気の熱に耐えきり、真正面からぶつかることが可能な身があればよいのだ。 そのような身体に変異させる呪文を、ピサロは心得ている。 リスクは大きい。 変異中は闘争本能が肥大化し思考力が低下する。インビジブルも使えないだろう。 耳に届くなげきの声が、思考に混じる。敵は、すぐ側にいる。 ピサロは、息を吐いた。 迷っている時間が惜しい。 だからピサロは決意する。 王城の一撃を滑らせたあの思念を、無意識のうちに当てにして。 ピサロは、詠唱を開始した。 ◆◆ 「畜生ッ!」 倒しても倒しても蘇る兵どもに、もう何度目かわからない肘鉄やローキックを叩き込み、アキラは悪態をつく。 何度でも起き上がる兵への苛立ちではない。この地獄絵図と、それを描いた者へ、アキラは憤っていた。 アキラは感じ取る。 この場に満ちる感情を、その心で感じ取る。 特段心を読む必要もない。そんなことをするまでもなく、叫びは痛いほどに伝わってくる。 それは声になどはならない。そんな風にかたちを規定できるほど、この嘆きは薄くない。 城がさけんで兵が湧く。兵がなげいて城が啼く。 止みはしない。その軍勢はもはや、他のことなど知りはしない。 だから止まらない。 究極光を受け止めて、悲痛な姿を晒しても。 王城は、止まらない。 たとえその身が砕けても。 王城は、止まらない。 その様は、アキラに思い起こさせた。 「ちがうだろ……」 自壊することも厭わずに戦い抜いた、義体の英雄の姿を思い起こさせた。 「そうやってさけんで」 彼女の渇きを思い出す。 彼女の望みを思い出す。 「叫びだけを残して」 彼女の、死に顔を、思い出す。 「そうやって逝きたいわけじゃあ、ねェだろッ!」 アキラが吼えた、その瞬間。 軍勢を構成するすべての意識が、アキラへと集中した。 叫びと嘆きと恨みと妬みと慟哭と。 そして、大いなる絶望が、まるで集合体のように、アキラを睨みつけた。 その集合意識は、重くくらく粘っこい。 毒沼のようなそれは、アキラを沈めてしまいそうなほどに深かった。 声にならない声がする。 かたちにならない感情が、酸性の液体を馴染ませた暴風のように吹きつける。 それは純粋が故に暴力的で、もはや精神攻撃の域に達していた。 「なめンな……」 けれどアキラは俯かない。屈しない。膝をつかずに拳を握る。 「負けるかよ……ッ! 負けて、たまるかよッ!!」 歯を食い縛り絶望の睥睨を睨み返し足を踏む。 どくり、と。 アキラの心臓が、一際大きく拍動する。いのちの底で輝くかけらが、そこにはある。 「お前らは、なんのためにここにいるッ!!」 スケルトンの憎しみを拳の一撃で割り砕く。 「こんなことで晴れるのかッ!!」 グールの怨みを肘鉄で叩き潰す。 「こんなことを繰り返して、満足なのかよッ!!」 亡霊兵の嘆きを念で弾き飛ばす。 それでも叫びは止まらない。それどころか、アキラが猛るほどに亡者の声は増していく。 王城が、アキラへと迫る。 黙れと、目障りだと。 そう嘆くように、その威容は駆動音を鳴り響かせて吶喊してくる。 壁に亀裂が走っても。黒煙がもうもうと立ち昇っても。剥き出しになった駆動部から、砕けた歯車が零れても。 そいつは、砂埃を纏いただその身だけを武器として、アキラへと迫る。 その城の、ボロボロになった左側面へ。 アルテマバスターを受け、それでも動き続ける左手<左塔>へ。 突っ込んで来る巨体が、あった。 その巨体は、鋭い爪の伸びる両手を、進撃する王城へと突き出した。 城の進撃が、押し止められる。それでも進もうとする城を、巨体は逞しい二本の足で踏ん張って止める。伸びる尻尾が、大地を擦った。 王城が灼熱の蒸気を噴出させるが、美しい紅の鱗には火傷一つ負わせられなかった。 巨体の頭部からは、天を貫くような雄々しい角があり、その背には一対の翼が生えていた。 それは、王城に負けぬほどの威容と威厳を誇っていた。 そいつが、アキラを一瞥する。 その紅玉色の瞳には、見覚えがあった。 「ピサロ……?」 「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!」 その口から、雄叫びが上がる。 音圧はびりびりと大気を震わせ、近場にいた亡者を伏せさせるそれは。 龍<ドラゴン>、だった。 ◆◆ 身体を龍へと変異させ、その圧倒的身体能力を得る呪文――ドラゴラム。 ピサロは、龍の力と闘争本能を以って、王城と相対する。 左手<左塔>のフレームを握り潰す。ひしゃげて折れたフレームを投げ捨て、歯車の群れへと腕を叩き込む。 力任せに突き出した腕は歯車を一気にぶち抜いて破砕させる。部品の欠片が雪のように降り注いだ。 黒煙がぶすぶすと沸き上がる。構わず龍は顔を突っ込んだ。 口を、開く。 鋭利な牙と赤い舌の奥で、火炎が逆巻いていた。 息を、吐き出す。 枷を解かれた灼熱の炎は鋼鉄の部品でさえも融解させる。それは、一兆度もの超高温を彷彿とさせた。 左手<左塔>が爆砕する。発生した爆発は誘爆を呼ぶ。群れとなって連なる炸裂は左手<左塔>を壊していく。濃くなった黒煙が空を汚す。 左手<左塔>が崩壊する。悲鳴を上げて崩壊する。 破砕音に交じり、がぎん、と。 硬い音が響き渡った。 その音は、連なる破壊の音の中にあって、あまりにも異質だった。 爆発の向こうで火花が散る。黒煙の彼方で蒸気が上がる。 硬質の音を上げたのは、王城の意思だった。 左手<左塔>はもう、動けずに滅びゆく。なればこそと王城は、左手<左塔>をパージしたのだった。 本体が爆発に巻き込まれないようなどと、そのような温い意思ではない。 捨てられた左手<左塔>に込められるのは、苛烈な叫びの結晶だった。 眩い閃光が迸る。断末魔を思わせる爆音が、世界を揺るがせる。 龍の至近距離で、大爆発が発生した。 爆発の熱量など火龍の身には児戯に過ぎない。ただ、その衝撃波と吹き飛んだ残骸は、龍鱗を抉っていた。 龍が、たたらを踏む。衝撃のダメージと、猛烈な閃光と爆音が、龍の感覚を奪っていた。 吐き気そうな煤臭さと濃厚な黒煙が立ち込める。 それを引き裂いたのは、王城の一撃だった。 船が海を掻き分けるように砂礫をぶち割って、城が滑ってくる。 龍に左腕<左回廊>を突き立てるべく、城が駆動する。 それは、左腕<左回廊>が潰れることを厭わない一撃だった。 龍の本能が意識を覚醒させる。 だが遅い。 龍の身体は、その一撃を避けるには大きすぎる。 だが龍は、危機感など覚えなかった。 悲しみとにくしみと絶望の沼の真ん中で、熱く燃える思念を、感じ取っていたからだ。 その思念は、王城の突進軌道をねじ曲げる。 龍の真横を、左腕<左回廊>が突き抜けた。 空を切ったそれを両腕でホールドし、根元に牙を突き立てる。 へし折る。 引き千切った左腕<左回廊>を、龍は握り締めて水平に構え、闘争心の赴くままに叩きつける。 鋼鉄の亡霊に、龍のフルスイングが直撃する。 鋼が衝突する撃音が鳴る。龍が握った左腕<左回廊>が砕け散り、王城のバルコニーが破壊され、それでも。 それでも王城は停止することなく、愚直な突撃を繰り返すのだった。 ◆◆ 「悪い、ことなのか」 弾かれ割れて転がり落ちた石片の中心で、カエルが呟いた。 その隣にいるアナスタシアは黙ったままで、止まない投石を、ただ身体が動くままに弾いていく。 それはまるで、“生きる”という命令を淡々とこなすだけの人形のようにも見えた。 「死者に逢いたいと望むのは、悪いことなのか」 隻腕であっても、体力のほとんどを消耗していても、カエルの剣閃は精確で淀みがなく、投石一つさえ先には通さない。 「俺は……そうは思わない」 統率こそされており、石の威力は侮れない。その反面、兵自体の錬度はそれほど高くない。 だからこそ、こうして語ることができる。 「俺は――俺たちは、死者を蘇らせたことがある」 カエルは語る。 先刻、イスラと話をしたときのように。 「死者を、“死ななかったこと”にしたこともある」 カエルが弾いた石が、アナスタシアの弾いた石と衝突し、砕ける。 「シルバード。ストレイボウが――ジョウイが言っていたその翼で、俺たちは時を超えてきた」 砕けた石は何処かへ弾け飛び、見えなくなる。もう一度と望んでも、きっとその石は見つからない。 「そうして俺たちは死した仲間を蘇らせた。仲間の母親を――死んだはずの人間を、救った」 探しても探しても、きっともう、見つからない。仮に見つかったとしても、砕けた石はもう、戻らない。 けれど、歴史を変えさえすれば。 石が砕ける直前に戻ることさえできれば。 もう一度、砕ける前の石は見つけられる。 たとえその結果、カエルかアナスタシアが、傷ついたとしても。 「……反吐が出るわ」 吐き捨てるアナスタシアに、カエルは苦笑を返すだけだった。 「それでも俺たちは、後悔はしていない。間違ったことをしたとは思っていない。身勝手だと、そう思うか?」 「思うわね」 斬って捨てるような返答からは、深い苛立ちが感じられた。 「貴方達はそれでいいわよね。けれど、過去を変えたいって願う人がどれだけいると思ってるの」 アナスタシアが、アガートラームを振り上げ、 「過去は変えられない。変えちゃいけない。そんなのは当たり前なの。そうじゃなきゃ、現在<今>を大切になんてできないじゃない」 地を割りかねない勢いで、荒っぽく叩きつける。 「死んだ人<過去>は戻しちゃいけないの」 飛んできた石が、まとめて砕け散った。 「いけない、のよ……ッ」 それは、血が滲むような呟きだった。 死者の“想い”を形にしてしまったアナスタシアが、血を流しているようだった。 「正論だな。ならば――」 カエルはすうっ、と呼吸をし、目を細めて亡者を見る。 「悔いているのか?」 アナスタシアは答えない。 食い縛るように、耐え抜くように、彼女は押し黙って身を守る。 晒される石礫に反撃をせず、されるがままに身を守る。 「悔いるなとは言えん。お前とジョウイが違うと、否定してやることは俺にはできん」 カエルは言葉を区切り、ただな、と続け、 「ヒトは、多かれ少なかれ身勝手だ。だから俺たちは行動した。そうでなければ生きられん。 そうでなくても生きられるのは、生粋の“勇者”くらいだ」 あのとき、遺跡ダンジョンの地下で、共界線を通じて感じた“救い”と。 アナスタシアに寄り添っていた魔狼を想い浮かべて、カエルは問うた。 「それは、お前もよく分かっているだろう?」 ◆◆ 覆うような氷壁の中で、イスラはへたり込んでいた。 そんなイスラの前に、ストレイボウはしゃがみ込む。その細い肩にそっと手を乗せると、震えが伝わってきた。 血の気を失い俯くその姿は、よく似ていた。 罪に苛まれ、苦しみ喘ぐストレイボウと、よく似ていたのだった。 「落ち着くんだイスラ」 ストレイボウは、努めて落ち付いて語りかける。 氷壁を外から叩く投石の音から、気を逸らせるように。 氷壁の向こうで喚き散らすような笑い声を、意識から引きはがすように。 時間に余裕があるわけではない。 だがストレイボウは、ゆっくりと、子どもに話しかけるように、言葉を紡いだ。 「俺が、分かるか?」 俯いていたイスラの顔が、上がる。 瞳は見開かれていた。唇は戦慄いていた。顔色は、真っ青だった。 見るからに痛々しい様子で、イスラは、ストレイボウを見つめ、そして、小さく頷いた。 「そうか、よかった」 ストレイボウの顔に笑みが浮かぶ。 まだ終わっていない。まだイスラは、堕ちていない。 それでこそイスラだと、ストレイボウは安堵する。 「イスラ。俺の罪を、憶えているか?」 その問いに、イスラは呆然としたまま、首を縦に振る。 それを見届けてから、ストレイボウは口を開く。 胸の底の疼きを堪えながら、だ。 「俺の罪は、決して許されるものじゃない。たとえみんなが許してくれたとしても」 忘れてはならない罪科が痛む。心に刻み込まれた咎が、ストレイボウを締め付ける。 それでいい。この疼痛は、決して忘れてはならない。癒してはならない。 「罪は、決して消えない」 その痛みと、ストレイボウは向き合う。 誤魔化さず、逃げ出さず、真正面から立ち向かう。 消すためではなく、受け止めるために。 そうすることができるのは、胸に灯る、確かな“想い”があるからだ。 「その重さに関係なく、犯した罪は、消せないんだ」 それは、独りでは得ることができなかったもの。 それは、オルステッドを昏い瞳で眺めていたかつての自分では、決して手にすることができなかったもの。 「だから自分で、付き合い方を決めなきゃいけないんだと、俺は思う」 そして、それは。 イスラの心にもまた、灯っているはずなのだ。 「こうするべきだとか、そんなことは言わない。俺は、お前に答えを与えてはやれない」 だけど、 「お前が自分で見つけた付き合い方なら、俺はそれを否定しない。それが、どんなものであってもな」 イスラの肩から右手を離して握り拳を作る。 その手を軽く、イスラの胸へと押し当てた。 鼓動を感じる。 イスラの鼓動を、その温もりを、イノチを、確かに感じる。 あのとき、ジャスティーンを召喚した力は、きっと今も宿っている。 だから大丈夫と、ストレイボウは思うのだ。 それは信頼だった。 たとえイスラが十字架に捕われて自分自身を信頼できなくとも。 信頼する人間はここにいると、伝えるように、告げる。 「答えを、出しに行こうじゃないか」 ストレイボウは立ち上がり、手を差し伸べた。 「俺も、俺の罪の証と――フォビアたちと、向き合いに行くよ」 ◆◆ 砂埃が巻き上がり、蒸気が噴き出し、黒煙が吹き上がり、火炎が舞い踊り、炸裂が連続する。 激しさを増す龍と王城の闘いは、命を掛けた舞踏のようだった。 王城の損傷は激しい。左腕<左回廊>から先を損失し、半分以上の外壁が壊れ、駆動部は異音を立て続けている。 されど王城は死を恐れない。 その身が砕けても、壊れても、苛烈なる攻撃の手が止むことはない。 その事実は、龍に防戦を強いていた。 目的は足止めであり、時間が経てば城は自壊する。故に防戦自体は不利な要素ではない。 ただしそれは、戦術的な目線で見れば、だ。 これは、戦争なのだ。 局所的な戦闘での勝利が、最終的な勝利に繋がるとは限らない。 たとえば。 時間を掛けた末に勝鬨を上げても、その瞬間に首輪が爆発してしまえば、それでおしまいなのだ。 王城ほどではないが、龍も無視ができないくらいの傷をいくつか負っている。 それでも龍は、致命的な一撃を受けていない。 その状態を維持できているのは、アキラのサポートがあってこそだ。 「ら、あぁァ――ッ!!」 アキラの念力が王城を惑わせる。 龍を叩き潰すはずだった右手<右塔>が、地面だけをブッ叩いた。 息をつく暇はない。 スケルトンの斬撃が、すぐ側へ迫っている。 避け切れないと判断したアキラは身を仰け反らせて防御する。皮膚の表面を刃が走り、血が噴き出した。 脳が痛みを知覚する。その痛みに反応し、防衛本能が天使の幻像<ホーリーゴースト>を生み出す。 天使の幻像<ホーリーゴースト>が、斬りつけてきたスケルトンを爆ぜさせた。 セルフヒールで回復を行って体勢を立て直す。嘆きを呻かせて、亡霊兵どもがアキラに群がって来る。 火の思念<フレームイメージ>でそいつらを焼き払い、逃れた敵にエルボーを叩き込む。 矢継ぎ早に意識を王城へと移し、その攻撃を逸らさせるべく念を飛ばす。 太い右手<右塔>が龍の片翼を掠める。その翼膜が、破かれた。 「糞……ッ!!」 失敗したわけではない。 念が、効きにくくなっているのだ。 あらゆる状態異常を無効とするスペシャルボディであっても、アキラの“想い”が乗った強念による一時的な幻惑は防げない。 意識が――感情があるのであれば、その思念を止めることなどできはしない。 そしてアキラの強念は、王城が抱く感情の対極にあるものだ。 故にそれは効果的であり、同時に。 抗いの意思を、呼び起こす。 軍勢を突き動かす感情に、アキラが反発し続けるように、だ。 軍勢が、力を増す。 悲しみが、嘆きが、絶望が、より大きくなる。 その様子は、酷く歪だった。 アキラは、歯が食い込むほどに唇を噛み締めた。 スケルトンを一体割るたびに悲しみが増える。 グールを一体焼くたびに嘆きが大きくなる。 亡霊兵を一体倒すたびに叫びが強くなる。 そうして、絶望はぶちまけられる。アキラが輝けば輝くほど、この場に陰は落ちていく。 それでもアキラは王城へ念を向ける。 負けられないのだ。負けたくないのだ。 こんな、つめたい悲しみだけが満ちるものを。 こんなつめたさの果てに、在るものを。 アキラの想い描く“無法松”<ヒーロー>は、絶対に、ゆるさない。 「止まれ……!」 念じる。 王城の一撃は揺るがない。それを龍は、紙一重で回避する。 「止まれ……ッ!!」 念じる。 王城の攻撃は止みはしない。それを龍は、腕一本で受け止める。 「止まれェッ!!」 念じる。 王城は踊る。その衝撃で自身を破壊しながら、蒸気と火花を散らして舞う。 「止まり……」 強く果てない“想い”を乗せて、心の底から念じる。 「やがれえぇェ――ッ!!」 しかして。 王城は、止まる。 耳を覆いたくなるような、痛々しい音と同時に、だ。 王城は、停止していた。 その右手<右塔>を、龍の身体を深々と突き破って、停止していたのだった。 言葉を失うアキラの視線の先で。 龍の身が、縮んでいく。 角と翼と尻尾が、折りたたまれるように細くなり小さくなる。 全身を包んでいた紅の鱗が、肌色に変わっていく。 戻っていく。 龍の姿から、戻っていく。 右手<右塔>に引っ掛かり、屋上の端を掠め、王城にもたれかかるように倒れて。 龍は――ピサロは、小さくなっていく。 微動だにすることなく。 声を上げることもなく。 「く、あ……」 ピサロは小さくなって、アキラの目には、見えなくなった。 「――――――――――――――――――――――――――………………………………………………………………………………ッ!!!!」 アキラの口から、絶叫が迸る。 それに呼応するように。それを、嘲笑うように。 歯車が鳴る。駆動機関が声を上げる。 王城が、再度動き出す。 音を立てて、緩慢に。 王城は、旋回する。 「……嘘、だろ」 そう零さずには、いられなかった。 右手<右塔>にべっとりと付着した龍の――ピサロの血液が、右手に浸透していく。 まるで、啜るように。 こぼれた命を、吸うように。 すると。 龍によって砕かれたはずの、バルコニーが。 超過駆動によって吹き飛んだ、歯車が。 直っていく。王城の破損箇所が修復されていく。 そうして城は、千切れた左腕から先を除いて回復を果たし、アキラへと向きなおった。 進撃が、再開される。 直り切らなかった左腕<左回廊>から、火花を散らして。 変わらぬ悲しみをあげながら。 修復された外壁を、再び壊しながら。 「やめろよ……」 壊れる痛みを知っているくせに、他の方法を知らないかのように。 「もう、やめろよ……」 城は、自分を傷つけていく。 悲しみの荒野にたった独り取り残され、未練を燻らせ憎しみを淀ませた果てに。 たった一つだけ残された方法が、それだと主張するように。 それしかないのだと、言うように。 それこそが、絶望の深淵でみつけた、最後の最後の。 ほんとうに最後の、たった一つだけ残された、“希望”だというように。 そんな亡者たちから、王城から、軍勢から。 伝わってくるものは、つめたいのだ。 伝わってくるものは、苦しみを引き剥がそうと胸を掻き毟り、その結果自分を引き裂いてしまうような痛みなのだ。 「これが、こんなものが、“希望”だっていうならさ」 どくり、と。 アキラの心臓が、高鳴った。 「誰が、笑えるんだよ?」 どくり、どくり、と。 アキラの鼓動が加速する。 「どこで、誰が、笑えるんだよ?」 空を見続けたギャンブラーが手にした、希望と欲望のダイス。 夢見るギャンブラーが潰えても、その力となった“希望”は、一万メートルの夢の果てで息づいている。 アキラの血となり肉となり、胸の中で脈打っている。 どくりどくりと。 強く雄々しく激しく、鼓動<ビート>を刻み続けている。 軍勢の中に蔓延する、暗く冷たく悲痛な“希望”めいたものではなく。 アキラだけが抱く“希望”が、胸の奥に確かに在る。 「なあ、あんた」 それに突き動かされて、アキラは呼び掛ける。 「あんた、今――」 アキラは投げ掛ける。 かつて、ここではないどこかの、顔も名前も知らない誰かへ向けた問いと、同じ問いを。 この声の届くすべてのものへと、投げ掛ける。 「――幸せか?」 悲しみが、膨れ上がった。 くず折れ、重なり、霧と化していた亡者の兵が、音を立て、一挙に立ち上がった。 蒸気が溢れ、すべての歯車が轟音を立てて回り出す。 アキラの問いを押し流し引き潰そうとするかのように、軍勢が動き出す。 突進が来る。 それは、部隊全ての未練と憎悪を集めて殺意とした突進だった。 濃厚で濃密で膨大で、底なしの殺意。触れた瞬間に消し炭にされてしまうほどの、圧倒的な暴力。 過ぎ去った後には何も残らない、荒廃だけを呼ぶ、酷くつめたい悲しみの突撃。 一片の幸せだってありはしないと、そう宣言するかのような進軍を、アキラは、真っ向から睨みつける。 たった一人ながら、その身から揺らめく意志は、軍勢に劣るものでは、決してない。 それどころか。 アキラの意志は、軍勢を突き動かす巨大な感情と拮抗するほどに、強いものだった。 認められない。 そんなものが、“希望”だと。 決して、認められない。 アキラは、ただ鼓動を感じる。 自分の中で確かに脈動する、その熱を感じ取る。 それは力強さを増していく。 目の前の絶望を前にして、果てないように強く拍動する。 抗いのリズムを刻む。 「ざけんなよ……」 だからアキラは逃げない。 こいつらに、背を向けるわけにはいかない。 「たとえ、たとえもう、ボロボロになって、壊れちまうことになったとしてもな……」 目を、逸らさない。 こいつらを、このまま進めさせるわけにはいかない。 「ほんとうに、ほんとうの“希望”を抱いていられるのなら……」 “希望”というのは、あたたかいものだと。 それを分からないまま突き進み、勝手に逝かれるのは、我慢がならなかった。 「いつかきっと、笑えんだよ……」 あたたかさを拒絶して、逝った先にあるものが。 ほんとうに楽園である、はずがない。 だから、アキラは叫ぶ。 「なあ」 たったひとり、荒野の果てを彷徨って、ボロボロになっても闘って。 それでも消せない“希望”を抱いていたから。 今際のときに微笑っていられた、英雄の名を。 アキラは、叫ぶのだ。 それは、当の本人すら捨てた名前。 捨てられても朽ちてはいない、確かな名前だった。 「――そうだろ、アイシャッ!!」 轟音を立てて。 西風が、吹き荒れた。 時系列順で読む BACK△159-3 みんないっしょに大魔王決戦-勇者への終曲-NEXT▼160-2 響き渡れ希望の鼓動 投下順で読む BACK△159-3 みんないっしょに大魔王決戦-勇者への終曲-NEXT▼160-2 響き渡れ希望の鼓動 159-3 みんないっしょに大魔王決戦-勇者への終曲- アナスタシア 160-2 響き渡れ希望の鼓動 イスラ アキラ ピサロ カエル ストレイボウ ▲
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ベルベットルーム 開発者、および招待されたユーザーのみがアクセスできる部屋。 招待されたユーザーはそのログインセッション中に限り部屋に自由に出入りできる。 入り口である青い扉は汽車ゾーンの近くにある。 座ってくつろげるソファや、DoremyOnASlide氏のための滑り台、 頑張れば中に座って陳列されている気分になれる棚などがある。 元ネタはペルソナシリーズの同名の部屋。